全国的な梨の産地として知られている船橋市内の梨農家「船芳園」(船橋市二和東2、TEL 047-448-2158)では、桜の満開時期に合わせて始まる受粉作業をつかの間の晴れ間で終わらせようと現在、あわただしい日々を送っている。
同園の加納芳光さんは「今年の開花は昨年と比較して1週間ほど遅かった。それでも、幸水の出荷がお盆前後なのでこれが通常。昨年が早すぎた感じ」と話す。
船橋市内には100軒近い梨農家があるが、いずれもこの時期は晴れ間を見ての受粉作業に忙しい。「ここ数年、桜の花見なんて行っていない。夜も花から花粉を摂取するのに忙しい」と、夏季には多くの人でにぎわう直売所とは異なる梨農家の裏側を明かす。
梨の実は、「幸水」(7月終盤~お盆後まで)、「豊水」(お盆前~8月末ごろまで)、「新高」(8月終わりごろ~9月まで)の順に収穫する。しかし、開花するのは、「新高」「豊水」「幸水」の順で収穫とは逆になる。
「幸水の受粉には、新高や豊水の花粉を使う。この時期には、今年の花から幸水に受粉させる花粉を摂取する作業も夜間に並行して行う。逆に、新高の受粉には昨年摂取した幸水の花粉を冷凍保存していたものを使う」と芳光さん。船橋市内の多くの梨農家は、それぞれこだわりの製造方法で梨を市場に流通させているが、「自家製の花粉」で受粉を行っているのはわずかになってしまったという。
最近は、中国産の梨から採った花粉で受粉させる農家も増えてきているという。「開花の時期に晴れ間が少ない時には保険の意味で冷凍保存の花粉を買えるというのは安心感がある。雨が降って作業できないと花粉を摂取できないこともある」と芳光さんの父、一男さん。「しかし、中国産の場合は保存状況などの問題もあって、結実するのが50%くらい」とも。
千葉県北西部の白井市などでは、ミツバチをはじめとした自然界の虫に受粉を任せる例も多いという。虫が梨の花の間を飛び交い、時期が遅れて開花した新高の花粉を持って、他よりも早めに咲いた幸水の花への受粉を行う。
しかし、船橋市のような都市型の農地では、農園全体を虫よけ網で覆ってしまうので人工授粉が主体。受粉の際には摘花作業を行い、花芽の中でも結実した際に枝が邪魔になり成長を阻害することが予測されるものを摘み取る。1~2番目に花芽を形成したものではなく3~5番目程度に花芽形成したものを残すという。
こうして手間をかけた受粉作業を行えるのも、花が咲いている間の3日間程度。主要な3品種の受粉全てを合わせても正味10日程度しかないという。