宿場の漁師町として古くから栄えてきた湊町辺りで戦中戦後、子どもたちの間だけで伝えられてきたという「買い将棋」が10月21日、民間図書館の情報ステーションで行われた体験会で復活した。
「買い将棋」が残っているのは湊町辺りでも「大町(だいちょう)」と呼ばれた一部の集落のみ。この集落を一歩でも出ると知る人がいないというレアな将棋の指し方だ。当時を知る地元漁師の大野一敏さんは「昔一緒に遊んだ親せきのあんちゃんでも忘れている。やり始めたらルールはすぐに思い出す」とほほ笑む。
ルールは単純だ。同時に遊べるのは4~5人。駒の前面を上にして盤上に右回りで「の」の字を書くように並べ、じゃんけんで勝った人が親になる。順に駒を一枚ずつ取っていき、全ての駒を取り終えると親から順に駒を盤上に出していく。このとき同じ種類の駒同士であれば一緒に複数枚を出すことも可能だ。
次の手番の参加者は駒の種類と枚数を前の手番のものにそろえ、同じものを出していく。その際に「歩、三、受けまして」と駒の種類と枚数をセットにして声を掛けるのがルール。出せる駒がない場合には「ないところ」と言ってパスすることができる。「王」はオールマイティーで、全ての種類の駒の全ての枚数を受けることができる。ただし、王を出すときだけは「買いまして」と言って駒を出さなければならない。チャンスを買うという意味があるという。場に全ての手駒を出し終えると上がり。上がりの順番を競い合って全員の順位をつけ勝敗を決める。
「子どものころに大人が将棋を指しているのを見て憧れた。大人と同じことをやっているっていうドキドキがたまらなかった」と大野さん。40枚の駒全てのありかを最初に見せ合い、盤上に出された駒から記憶を頼りに知略戦を繰り広げる。
「歩」の枚数と「王将」を出すタイミングが重要なキーになる。「子どもだましだともって始めてみたけど熱くなる」と体験会に参加した男性。「一番負けた人は金を出すんじゃなくて、おでこに(中指ではじくしぐさをつくって)これ。子どもたちがやった遊びだから健全」とも。